panettone(パネットーネ)
イタリアの伝統的なクリスマスを待つための菓子パン
宮廷料理人がクリスマスの宴会の途中でデザートを焦がしてしまい、トーニと呼ばれる見習いが残り物で作ったとされている
それはとてつもない違和感だった。
とても無視できない、だが本人に言うには躊躇うような違和感だ。
上忍の胸ポケットに赤と緑の小さなリボンがついていた。
小さいながらも違和感は半端ない。
それをなんの違和感もありませんと言うかのように爽快に歩いている姿はむしろあっぱれだ。俺なら恥ずかしくて死ぬ。
見えにくい位置にあるのならくだらない悪戯だと笑えるが、あんないかにもつけてますと主張する位置にあればあれは意図的だと感じる。
だが相手は里の誉れ、屈指のエリート様だ。
軽々しく言った日には雷ひとつ落ちたところで不思議ではない。そんなリスクを背負ってまで言うような親切な人はいないだろう。
勿論俺だって嫌だ。
「お疲れ様です。お預かりします」
作り笑顔で受け取ると書類に目を落とす。
目を合わすと絶対笑ってしまう。そしたら何されるか分かったモンじゃない。無視だ、無視。
「イルカせんせ。今日どこ行く?寒いし鍋が食いたいな」
「俺は仕事がありますので、お一人でどうぞ」
「今日は定時に終わるデショ?迎えに来るから」
「いや、だから、仕事っ」
慌てて顔を上げるともうそこには彼の姿はなかった。
あのやろう、また言い逃げしやがった。
ここで無視しても必ず定時には来るから結局は付き合わされる。というかなぜ俺の勤務時間把握しているんだよ。
仕方ないと諦めて仕事を再開した。
再度鍋でいい?と聞かれて連れて行かれたのは、民家のような看板も何もでていない店だった。離れみたいな個室に通され、鍋を出される。
いつもこの人の奢りだから気にしないけど。
だけどやはり気が引けるのは確かだ。強引に彼から誘ったとしてもお互い成人した男だし、地位には雲泥の差があるが年はそう変わらないのだから奢ってもらうのは気が引ける。
(大体、俺みたいなの誘うよりもっと適任者いるだろう)
今、誰と付き合っているのかは、知らないけど。
「先生。オレ明日から二週間ぐらいの任務だから」
「はぁ。お疲れ様です」
振り分けたのは俺だから、知っているけど。
「それ終わったら3日休みもらったから」
「そうですか。ゆっくり休んでください」
瞬間、ムッとして持っていた器をおろした。
「や・す・み・も・らっ・た・の」
「聞きました」
「23日から25日まで」
「いいですねぇ」
「今師走だから!!」
「師走は忙しいですよね。坊さんだけじゃなくて教師も成績処理で大忙しですよ。誰かさんのせいで仕事持ち帰って徹夜ですし」
嫌み混じりで言うと顔を真っ赤にした上忍が何か言いたげにうーうー唸っている。
「なんか、言うことあるデショ!!」
「はぁ?・・・あぁこの牡蠣もらっていいですか」
牡蠣って高級なもの久しぶりに食べたなぁ。濃厚なミルクのような味が最高だ。許可を貰う前にひょいひょいっと器に入れる。
「牡蠣なんかどうでもいい!!」
器を取られた。どうでもいいってあんた、これ食いに来たんじゃないか。なに怒っているんだよ。
「あーもー何であんたって・・・」
ぶつぶついいながら頭をガシガシと強く掻いた。
「分かった。今ならなんでも言うこと聞く。上下関係も気にしない。無礼講!」
これでどうだといいたげな顔をされた。
いや、だから言いたいことなんてないし。
「器返してください」
「――っ、この食いしん坊!!」
俺の器に入っていた物を勢いよく食べ、空になった器を返された。
意味分からん。まだ牡蠣は鍋の中あるし。
「何言いたいのか知りませんが、こんな美味しい物味わって食べないとダメですよ」
「もういい」
拗ねたようにブスッとした態度で食べ始める。
胸元には相変わらず奇妙な違和感を堂々と披露していた。
変だ。
この人やっぱり変だ。
当然のように会計を済ませ、当然のように俺からの金を受け取らなかった。
「やっすい給料の人から貰うほど困窮してないし」
いつも以上に嫌みを言われて、とぼとぼと帰って行った。
その後ろ姿は寂しげで、なんだかまた彼の期待には応えられなかったのだと感じた。
前の変なブームもそうだったが、彼の考えは複雑で理解できない。いや理解できる人なんていないのだろう。
それでもあの何かを期待する目に、それが叶えられなかった時の寂しげな姿は、心に打つものがある。
見えなくなるまで見送ると、自宅ではない目的地に向かい歩き出した。
「えっ、キャンセルが出た?」
「はい。先ほど一件ですが」
喜んでいる俺に少し困ったように受け付けの方は案内表を見せた。
「ただ、この最上階特設席ですが」
そう言って見せられたのはおよそ半年分の給料がとぶ値段だった。
(誰がたかが食事になんかにこんなくそ高い金出すんだよ。あの上忍様じゃあるまいし)
怒りに身を任せているとグシャッと紙を握りつぶしていた。
日頃奢ってもったり先日高価な物を貰ったから、なにかお返しができればいいと考えたことだった。
三十代目前にして、夢見がちな乙女のような思考の人だからこういうロマンチックな場所が好きだろうと、今年オープンした大きなツリーが見れるレストランに予約を入れようとしたが、みんな考えることは同じですでに予約はいっぱいだった。
『先生、知ってます?クリスマスに大きなツリーの下で愛を誓った二人はずっと一緒なんですって』
うっとりしながら話す彼のことを思い出す。
あれは去年だ。夕食の帰りに大きなツリーを見つけ二人で見に行った。あの頃は良かったなぁ。カカシさん優しかったし。寒いからとマフラーを巻いてくれた。オレには口布あるからと笑いながら。
あのいかがわしい本の影響か、彼は時々乙女みたいなことを言っていた。特におまじないなど頬を染めながら熱心に話してくれた。
だからきっとこういう所は喜んでくれると思ったのに。
そうしたら、もしかしたら昔のように戻ってくれるのではないかと淡い期待をしていたのに。
仕方ない、行動を移すのが遅すぎていたのだ。
だって普通この忙しいのにクリスマス前後に休みがとれるなんて奇跡ではないか。去年はあんなに切望していたのに任務が急に入り、ひどく落ち込んでいた。だから休みになっていると聞いたときは嬉しかったのに、遅すぎたのだ。
(仕方ない、他の店探すか)
今からではたいしたところはとれないだろうが。それよりは自宅に誘った方が良いかもしれないが。
(来たくもないよな。男の家なんて)
なんで聖なる日にむさぐるしい男の家になんて行かなきゃいけないんだ。それなら適当に女の家に行くよなと考えてはぁとため息をついた。
それにしても確かこの特設席は真っ先に予約が入ったと専ら噂だったのに。
(クリスマス前に振られたのか。ざまーみろ)
そう思うと、振られた人には申し訳ないが少しスカッとした。
結局、有名な所は全滅した。
こうなれば少し珍しい秘蔵の酒を出して自宅で飲み明かそうと思い、任務前の彼を探した。
めずらしく上忍の待機所にいた彼はぼんやりと外を眺めていた。
「はたけ上忍」
呼ぶと虚ろげな表情でこちらをみた。
あ、相変わらずあの変なリボンつけてる。そう言えばあの色合いはクリスマスカラーだな。
「何?」
声は冷たかった。
機嫌が悪いのかもしれない。
何となく、言いだしずらい。
「えっと・・・」
「あんたみたいな鈍感な人に望んだのが馬鹿だった。思えばあんたから誘ってくれたのは最初だけだし。それからずっとオレが誘わないと会うことなんてなかったし」
「はぁ」
ぶつぶつと恨みがましく呟く。
「なんか虚しいなぁ。結局オレの独り相撲だし、確かに強引に誘うけどさ、あんただって嬉しそうじゃないか。なのに終われば何の感情もありません、ただ上司に従って接待しただけですみたいな清潔そうな顔してさ。オレがどんなに傷ついているのかわかんないよね」
「意味が分かりません」
「分からないから鈍感なのっ!!」
ああもうと頭を掻く。
なんだか良く分からないが、彼は苛ついていて、これはのんきに誘う雰囲気ではないことは分かった。
せっかく誘おうと思ったのに、少し浮かれていた自分の感情がどす黒く変わっていくのが分かる。
「オレが休み取るためにどんだけ苦労したか知らないくせに」
そう言いながら、胸にあった二色のリボンを毟り取って投げた。
「約束したデショ、去年!!」
『先生、クリスマスは任務が入ってしまいました』
この世の終わりみたいな暗い顔した彼を思い出す。
大丈夫ですよ、来年もありますと励ましても彼の気は晴れずどんよりと俯いていた。
『来年は、お休みとれたら二人で過ごしましょ?』
ねっと言うとぱあぁと嬉しそうな顔をした。
『本当?先生、約束』
乙女のように小指をつなげて、赤い顔をした彼がふふっと笑った。
『先生から誘われちゃった』
さっきまでの暗い表情は一気に消え、浮かれている様子をみてなんだか嬉しくなった。そんなことで喜んでもらえるなら、いくらでもいつでも一緒にいるのに。
だから、誘おうとしてるじゃないか。今。
「カカ」
「カカシっ!!」
俺が言い出す前に、綺麗な女性が俺の横を通って彼の腕を掴んだ。
「クリスマス、お休みとれたって本当?嬉しい。どこか二人でいこっか」
無邪気な笑みで豊満な胸を彼の腕に押しつけた。
あれ?
俺、何勘違いしてるんだろう。
確かに去年約束したし、俺もそのつもりでいた。
クリスマスは休みが取れたら二人で過ごすのは当たり前だって思っていた。ただ場所を少し凝ったところにしようか迷っていただけだった。だから決まるのまで誘わなかった。
でも、彼はそうじゃない。
だって彼は俺のこと誘わなかったじゃないか。
カァァと顔が熱くなる。
恥ずかしい。恥ずかしい。
独り相撲は俺の方じゃないか。
いたたまれなくなってその場から逃げる。
そうだよ、彼は里屈指のエリートで、顔も良くて、恋人も途切れない、モテモテの人だ。
それが聖なる夜に、友人でもない俺となんか過ごしたいなんて思うわけないじゃないか。
勘違いも甚だしい。
「先生っ、待って!!」
声が遠くから聞こえたと思ったらすぐに腕を取られた。
こんな時でも力の差を感じる。
「さっきのは」
「良かったじゃないですか」
恋人と一緒にいれて。
だってそういう日だから。
良く知らないが聖人の誕生日に託けて恋人といちゃいちゃする日なんだから。
「よかったって、何?」
低い声が聞こえた。
「恋人なんでしょ?」
そういうと押し黙った。
否定しないのは嘘ではないからだ。
やっぱりと納得した。
「お休みとれて、恋人と過ごせて良かったじゃないですか」
当然のように、当たり前のように。
声は震えてなかった。
よかったと冷静に思った。
「・・・そう、良かった。良かった、ねぇ」
思わせぶりな言葉だ。挑発的な目でこちらを見ている。
「そうだね。クリスマスだし?恋人と性なる夜でも過ごせば最高の休暇だもんね。去年誘ってくれたのに覚えてもいないような薄情者より可愛い女とつるんでいた方が功利的だよね」
ハッと鼻で笑った。
その態度に押し殺していたイライラが爆発した。
「っ、そうだよ。むさぐるしい男の部屋でそんなに珍しくない酒なんか飲むより、ずっと楽しいだろうよ」
「何言って」
「悪かったな、自宅しか呼べると来なくて。しょっぼい酒なんか出そうと思ってて。そんなくだらない所しか誘えないような俺より女といたほうが功利的だよっ!!」
結んでいた髪をほどき、髪留めを投げつける。
こんなもの貰って、浮かれてて、馬鹿みたいだ。
何にも思っていない、からかわれただけなのに、本気にして。雑誌で有名なところ調べたり、キャンセル待ちのため何度か行き慣れないレストラン往復したりして、このくそ忙しい時にクリスマスの予定なんか考えて。
馬鹿みたいだ。
本当、馬鹿みたい。
ぽろっと涙が溢れて、逃げるように背を向けて走り出した。
声も、足音もしなかった。
追っかけたりしない。
そんなとこ誘われる方が迷惑だから。
からかってるのに、本気にされると面倒だから。
おかげで目が覚めたよ。
あんたのことなんて、絶対本気にしない。
期待するような目も、寂しげな後ろ姿も、少し照れた顔も全部全部嘘だよ。
嘘なんだ。
誰もいない資料室に入り、声を殺して泣いた。
「あれ、イルカ先生。輪ゴムなんてつけて」
めざとく言われははっと鼻を掻いた。
「あの綺麗な髪留めどうされたんですか?」
「いや、ちょっと」
送り主に投げつけてきましたとは言えずに曖昧に誤魔化した。
「ミドリ先生こそ綺麗な髪留めされてますね」
普段はおろしている髪が一つに結ばれ、綺麗な赤と緑のリボンでくくっていた。
「ふふふ。これ可愛いでしょ。おまじないなんです」
「おまじない・・・?」
「赤と緑のリボンを身につけて、クリスマス誘われると両思いになれるんですって」
頬を赤く染めて子どもっぽいこと言う彼女はなんだか可愛らしかった。
おまじないなんて、あてにできるのか?
リボンを身につけなくても、クリスマスに誘われるのならそれなりに脈ありだろと思い視線をずらすと、若い先生の何人かが同様のリボンを髪や腕にしていた。
そう言えば、自分のクラスの子どもも何人かいたなぁと思い出す。
(そんなに流行っているのか)
ふと、あの奇妙なリボンを思い出す。
いい年して恥ずかしいリボンを、まるで効果を期待するように高々に掲げて。
(よかったな、誘ってもらって)
胸くそ悪くなるので考えるのを止めた。
馬鹿馬鹿しい。
クリスマスなんて本当に馬鹿馬鹿しい。
クリスマスも過ぎてしまえば小さな祭りだったと冷静になれる。その冷静になったとき浮かれて羽目を外しすぎた人間には大打撃となって襲ってくる。
大事に、大事にしていた酒を飲んでしまった。
しかも一人で。よく味も分からないような状態で。
大事な秘蔵の酒だったのに。
あー頭痛い、これは二日酔いだと思いながら起きた。
今日は休みで良かったと思いながら水を飲む。同じ色なのにどうしてこう違うのだろうなぁと思いながらコップを置くとコトっと外から音がした。
(誰かいる・・・?)
何となく気配はするが上手く隠しているのか誰か分からなかった。敵にしては、存在感ありすぎだ。
おそるおそる出てみると、ボロボロになった上忍が立っていた。
「はたけ上忍・・・」
「ごめん。ちょっと顔見に来ただけだから」
そう言って帰りそうになるのを無意識に掴んだ。
「っ、せんせ」
「よければ、何か食べていきますか」
何言ってるんだろう。自分だって二日酔いで死にそうなのに。
でもなんだかそう言わないと、今言葉をかけないと何だか消えそうで。
「うんっ」
嬉しそうにあがりこむ姿は本当に嬉しそうで。
なんだかなぁとため息をついた。
まああの日は俺もおかしかったのだ。天下の上忍様にあんな軽口叩いて、きっと浮かれていたんだ、そう思うことにした。
昨日作ったご飯を温める。
「・・・お酒、飲みたい」
ぽつりと呟いた。
「先生のお酒、飲みたい」
「残念ながらありませんよ」
「うそ!なんで」
「何でって、昨日飲みました」
ほらそこに瓶が転がってるでしょと声をかけると、うわぁと変な叫び声がした。
「ひどいひどい先生ひどい」
「ひどいって、なんですか」
「オレのために用意してくれたのに!まさか誰かと飲んだの!?」
何そんなに大声出しているのかと呆れながらご飯を並べる。
「うるさいこと言ってるとあげませんよ」
「誤魔化さないでよ!!誰!誰と飲んだの?」
腕を握られすごい剣幕で睨まれる。
何をそんなに気になるんだよ。それって大事なことなのか。
「一人ですよ」
言ってしまってしまったと思う。
またきっとからかわれる。クリスマスなのに一人でこんな汚い部屋で酒飲むなんて、可哀相な人だって。
まぁ真実だから仕方ないけど。
だが不思議なことに彼は何も言わずに俯いていた。
「ほら、朝からお酒なんて体に悪いですからちゃんと食べてください」
変だなぁと思いながらもテーブルに料理を並べる。
静かに顔をあげずに食べ始めた。
しーんと静かになる。
その沈黙がなんとなく心地悪かった。
「任務、だったんですか?」
「うん。ちょっと長引いてね。さっき帰ってきた」
なるほど。だからそんなにボロボロなんだなと思った。
あっ、じゃあクリスマスはつぶれたのか。あんなに楽しみにしてたのに可哀相だな。
そう思いながらも、なんとなくここ数週間とれなかったムカムカが引いていく。
「イルカせんせ」
短く名前を呼んだ。
「ご飯、多いね」
「昨日の残りですから」
「昨日一人分にしては、すごく多いね」
何か言いたげな物の言い方に、なんですかと聞いた。
「なんだかクリスマスメニューだから」
「昨日はクリスマスでしたから」
「一人なのに?」
「一人でもクリスマスはクリスマスでしょう」
「うん。そうだよね」
くすくすと嬉しそうに笑った。
「昨日、来れたら良かったなぁ」
それは俺に向けていっているのではなく、寧ろ自分に戒めのように言った。
なんだよ、うるさいなぁ。
昨日帰って来れたって、俺の所には来てくれないくせに。
「先生。来年は、来年こそは二人で過ごそう?」
「嫌ですよ。来年は可愛い恋人と二人っきりで過ごすつもりですから」
「やだ、先生。可愛いなんて」
きゃーと頬を染めた。
おめーじゃねーよ。
聞いていたのか?可愛い恋人だ、恋人。
「じゃあ来年までには可愛くなるから、早く恋人にしてね」
そういって無理矢理小指を握らされた。
「なんであんたを恋人にしなきゃいけないんですか!!」
握らされた小指を無理矢理外す。
「なんでって先生、おまじない知らないの?」
今度こそ心底馬鹿にしたようにハッと笑った。
言ってることと顔の表情が違いすぎる。
正直いい年した成人男性がおまじないという単語を使うのはあんたぐらいの美形じゃなければどん引きだぞ。
「おまじないって例のリボンですか?」
「何だ!知ってだんだ。じゃあ早く誘ってくれれば良かったのに」
そしたらレストラン予約取り消ししなかったのにとかついでに近くのホテルも予約してたのにとかヤケになって任務なんか入れるんじゃなかったなぁとか嬉しそうに呟くが意味が一切分からなかった。
「あのおまじないなら、無効ですよ」
「はぁ?」
「だって俺が誘ったとき、はたけ上忍リボンとってたじゃないですか」
適当なことを言ったのに、本人は酷くショックを受けていた。
「いや、だって、だって・・・」
その顔が悲惨なのに、可笑しくて。
「あはは。残念でした-」
俺は腹を抱えて笑った。
あんなにイライラしていたのに、そんなこと全部吹っ飛ぶぐらい可笑しかった。
どうでも良いじゃないか。
あんたは気まぐれにここに来て。
俺も気まぐれに誘って。
それでこんなに楽しいんだから。
意味なんか深く考えず、名前もつかない付き合いだけど。
それでいいじゃないか。
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